こんにちは。
一社)日本アート教育振興会の河野です。
絵を見ていて、
「なんだかこの絵、つい見ちゃう…」
そんなふうに、理由はわからないけれど自然と惹きつけられた経験はありませんか?
その“吸い寄せられる”感覚は、
決して偶然ではありません。
今日は、その“なんとなく引き込まれる”感覚の正体について、少し掘り下げていきましょう!
「視線誘導」
これは文字通り、“見る人の目線を誘導する”仕掛け
のことです。
多くの絵画には、視線をある順序で誘導するための
構図、線、光、色彩の設計が、
緻密に組み込まれているのです。
たとえば、ポスターや本の表紙などで見かける肖像画。
人物の顔が真正面にあるだけで、
なんとなく「目が合った」ような気分になりますよね。
実はこれ、視線誘導の基本中の基本なんです。
人間は
「目」に強く反応するようにできています。
だから顔が中央にあるだけで、
見る人の視線は自然とそこに導かれるのです。
また、絵の中に“斜めの線”があると、
そこに動きが生まれます。

背景の道や、手の角度、布の折れ目など、
斜めの線があると私たちの
視線も
その方向へと自然に流れていく。
視線の流れを計算して描かれた絵は、
見る人の目を自然に運びながら、
作品の中に込められた世界を丁寧に見せてくれます。
視線誘導の傑作例としてよく挙げられるのが、
レオナルド・ダ・ヴィン
チの《最後の晩餐》です。
この作品では、中央にいるキリストを、
すべての線と視線が取り囲むよう
に設計されています。
背景の壁、天井の線、開かれた窓、
そして左右の弟子たちの仕草や目線
すべてが、見る人の視線を自然とキリストに集めていきます。
これは「一点透視図法」という技法が見事に使われています。

誰に何も言われなくても、
私たちは無意識のうちに
「最も大事な人物」
をまっすぐに見つけることができます。
視線誘導でもう一つ重要なのが
「コントラスト」
です。
たとえば、全体が淡い色でまとめられている中に、
ひとつだけ濃い赤があったとしたら、
そこに目が行くのは当然ですよね。
これは広告などにも多用されているテクニックで、
明るい背景に黒文字、
白い余白の中に一点だけビビッドな色、
これらは視線を操るための工夫です。
絵画においても、
伝えたいところに光を集中させたり、
周囲と異なる色で際立たせたりして、
見る人の注意を自然と集めるようになっています。
さらに面白いのは、
「見る順番」が変わると、
その絵の意味の受け取り方すら変わる
ことがあります。
最初に人物の目に注目してから背景を見るのか、
それとも背景の風景に目
を奪われてから人物に気づくのか。
この順番によって、作品の印象や感じる物語が変わってくるのです。
そして 視線誘導のテクニックは、
私たちの日常にも溢れています。
たとえば、SNSで流れてくる画像の中で、
ついタップしてしまうもの。
スマホ広告で気づけば目が止まっていたバナー。
スーパーの棚で手が伸びたパッケージデザイン。
これらもすべて、
「見せたい場所」を巧みに操っている例です。
ここまでお話ししたように、
多くの作品には作者による視線誘導の工夫が
込められています。
けれどその導線に沿いながらも、
どこに一番最初に惹かれるかは、
見る人によって少しずつ違ってきます。
誰かはまず“顔”を見る。
誰かは“光のある場所”を見る。
誰かは“背景の細部”から見るかもしれません。
どこに目がいくかは、
その人の価値観や人生経験、
今の心の状態と深く関係しています。
同じ絵を見ていても、感じ取るものが違うのは、
自分という「フィルター」を通して見ているからなんですね。
だからこそ、
あなたがどこに最初に目を向けるか、
これもあなただけの個性なんです。
「なんで私はここが気になったんだろう?」
と問い直してみると、
自分の内側を知るヒントにもなります。
次にお気に入りの絵を見るとき、
ちょっとだけその“見る順番”を意識してみてください。
そして、自分がどこに一番に目を向けたのかにも、
そっと目を向けてみてください。
そこに、今のあなたの心が映っているかもしれません。
一枚の絵を見ていても、
隣にいる誰かには
まったく違う世界が広がっています。
同じ絵なのに、
感じ方も、気づくポイントも、
人によってこんなに違う。
そうした違いに気づく瞬間も、絵を見る楽しさのひとつです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。