こんにちは。
一社)日本アート教育振興会の河野です。
突然ですが、あなたは羊と山羊の区別がつきますか?
私は羊と山羊と聞くと
高校生の頃に作った年賀状を思い出します。
まさに羊年の年賀状を送るとき、
はがきをピンク色に塗って、
その上から図鑑にあった羊と山羊の違いをコピーして貼り付けたんです。
友人から勉強になった、と返事が来たことを覚えています(笑)
ふわふわの毛におっとりとした羊、
一方で
つんとした顔つきで角があり、崖を登っていく山羊。
どちらも牧場なんかで見かける、私たちにとってわりと身近な動物ですよね。
しかし、キリスト教の世界では、
この2匹がとても特別な意味をもっているんです。
美術の世界でもこの2匹は、
しばしば対照的な存在として描かれてきました。
とくにキリスト教美術では、「救い」と「裁き」
という、
まさに
天国と地獄のような意味で使い分けられているのです。
ただの動物じゃなくて、「人間の生き方」や「心のあり方」を表すシンボル
として、
たくさんの絵に登場してきました。
どうしてそんなふうに考えられるようになったのか?
聖書のお話と、美術の世界をかんたんにひもときながら、のぞいてみましょう。
キリスト教の聖書には、
「最後の審判」という場面が出てきます。
それは、世界の終わりの日、すべての人が神さまの前に集められる、という場面。
このとき神さまは、
人間たちを「羊」と「山羊」に分けるんだそうです。
羊に分けられるのは、
困っている人に手を差し伸べたり、やさしく生きてきた人たち。
山羊にされるのは、
そういう思いやりを持たずに、自分のことだけを考えて生きてきた人たち。
そして神さまはこう言います。
「羊は右に、山羊は左に」
右側の羊たちは祝福され、天国へ。
左側の山羊たちは……悲しいことに、
罰を受けることになってしまうんです。
これが、新約聖書『マタイによる福音書』に出てくる、有名な話です。
このお話は、中世からルネサンス時代にかけての美術作品に大きな影響を与えました。
たとえば、ミケランジェロの《最後の審判》。
以前のブログでもご紹介した、
バチカン市国のシスティーナ礼拝堂にある大きな絵です。
この絵では、真ん中にキリストが立っていて、
右側(観る人から見ると左側)には救
われた人たち、
左側(観る人から見て右側)には地獄へ落ちていく人たちが描かれています。
地獄に向かう人たちの、もがくようなポーズや必死な表情を見ると、
まる
で山羊のような身のこなしにも見えてきます。
美術の中で、
羊は「従順で救われる存在」、
山羊は「反抗して滅びる存在」として、
しっかり描き分けられていたんですね。
羊はさらに、キリストそのものの象徴でもあります。
キリスト教の中で、「神の小羊」という言葉があるのを知っていますか?
これは、「イエス・キリストが人々の罪を背負い、自らを犠牲にして救いをもたらす存在」だという意味です。
たとえば、ヤン・ファン・エイクが描いた
《神秘の子羊》(ヘント祭壇画)では、
小さな羊が祭壇の上に立っています。
胸から流れる血は杯に注がれていて、
それが「キリストの犠牲」を表しています。
血が描かれているのに、絵全体はとても静かでおごそか。
羊の姿からは、
「やさしさ」「まじめさ」「純粋さ」がにじみ出ています。
一方の山羊は、悪魔や罪、異教の象徴として扱われることも多くありました。
角のある悪魔の姿や、黒ミサに出てくる怪しい山羊のイメージ、
どこかで見たことがあるかもしれません。
しかし、山羊って、本当に“悪い存在”なのでしょうか?
考えてみると、山羊ってとっても自由な生きものですよね。
自分の行きたいところへぴょんぴょん跳ねていったり、
柵を飛び越えたり。
誰にも縛られず、自分の意志で動く。
そんなところから、
山羊は「自由」や「反骨精神」を象徴する動物にもな
っていきました。
たとえば、ピカソは山羊の絵をたびたび描いています。
彼にとって山羊は、ただの悪者じゃなくて、エネルギッシュで、生命力あふれる存在だったんです。
今の時代では、山羊=悪、という単純な図式では語れなくなっています。
むしろ、型にはまらずに自分らしく生きる力強さとして、
山羊のイメージを見直す動きも出てきています。
羊と山羊、ただの動物と思っていたけど、
こんなに深い意味があるなんて、ちょっとびっくりですよね。
ここまでのお話を読んで、ちょっと考えてみませんか?
あなたは羊タイプでしょうか?
それとも山羊タイプでしょうか?
みんなと協力しながら穏やかに生きる羊のような人もいれば、
自分のやりたいことをまっすぐ突き進む山羊のような人もいます。
正しいとか間違いとか、白か黒かを決めるためじゃなくて、
「いろんな生き方がある」ということかもしれません。
あなたの中の「羊」と「山羊」、
どちらに、今、心が傾いていますか?
ぜひ教えてください!
最後までお読みいただきありがとうございました!